トランスクリプトーム創薬
当研究室では、トランスクリプトーム解析や遺伝子発現制御を指標に薬効評価やMOAの同定を行う「トランスクリプトーム創薬」を推進し、見出されてきた低分子化合物(ヒット化合物やリード化合物)を医師主導臨床試験に至るまで開発を進めています。人類が直面する社会的課題の解決に挑戦する、以下のプロジェクトが動いています。
1. 疣贅治療や子宮頸がん予防に繋がる抗HPV薬候補化合物FIT039
アカデミア発ベンチャーのキノファーマ社と共同開発しているCDK9阻害剤FIT039はパピローマウィルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、B型肝炎ウイルスなど広範なDNAウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス(HIV)の転写を抑制して、これらのウイルスの増殖を抑制します(Yamamoto, et al. J Clin Invest. 2014; Ajiro, et al. Clin Cancer Res. 2018)。 FIT039貼付剤および軟膏は臨床試験において疣贅の縮小効果を示しました。またFIT039膣錠は第2相臨床試験においてヒトパピローマウィルス(HPV)を子宮頸部から排除できることを示し、抗HPVワクチン未接種者の子宮頸癌を防ぐ新薬として公衆衛生への多大な貢献が期待されています。
2. 遺伝病の先制医療薬候補化合物RECTAS2.0
心ファブリー病は日本を含む東アジアに多く見られるGLA遺伝子のc.639+919G>A変異により発症する遺伝病で、中年期以降に心臓の障害を引き起こす疾患です。我々は、患者由来のiPS細胞から作製した心筋細胞を用い、異常なRNAスプライシングを修正する化合物RECTAS2.0を開発し、酵素活性の回復に成功しました(Awaya, et al. Sci Adv. 2025)。また、この化合物を経口投与することで、遺伝子改変マウスの心筋でも同様にスプライシング異常の是正が確認されました。この化合物は、従来の酵素補充療法と異なり、経口投与で心筋に届きやすいので、遺伝子診断で変異が見つかった保因者に早期に投薬を始めて、遺伝病の発症を抑える「先制RNA医療」の実現が期待されます(下図およびプレスリリースhttps://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-04-11-2)。本化合物で治療可能な心ファブリー病患者が、西日本や台湾に1万人以上居住されていると推定されていますので、京都大学発ベンチャーのBTB Therapeutics, Inc.やマグミット製薬株式会社と連携し、実用化へ準備を進めています。また、心ファブリー病以外にも、RNAスプライシング異常に起因する他の遺伝病に対しても、RECTAS2.0は同様の薬効を発揮できると期待されます。

3. 副作用や依存性のない非オピオイド鎮痛薬候補化合物ADRIANA
米国ではフェンタニルなど合成麻薬(オピオイド)の過剰摂取によって、2023年には8万人もの人々が亡くなり、オピオイドクライシスと呼ばれています。それゆえトランプ政権は国境警備の強化などを隣国に迫っていますが、根本的な解決を図るためには、オピオイド鎮痛薬に代わる新薬の開発が必要です。我々は、ヒトを含む動物は、生命に危機が及ぶような状況に陥ると、ノルアドレナリンを神経細胞から分泌して痛みを抑えていることにヒントを得て、オピオイドとは全く異なる作用機序で働く画期的な鎮痛薬ADRIANA(アドリアーナ)を見出しました(Toyomoto, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2025)。ADRIANAは、癌などの強い痛みに対して、モルヒネに匹敵する鎮痛作用を有する一方、依存性や重篤な副作用は見られないため、オピオイドクライシスから人々を救う革新的な薬剤となり得ます。本学医学部附属病院で実施されたADRIANAの医師主導治験では非常に有望な結果が得られており、BTB Therapeutics, Inc.と共同で米国における大規模な第II相臨床試験の準備が進んでいます(下図およびプレスリリースhttps://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-08-08)。

