RNA Biology

1. RNA結合タンパク質

 哺乳類には約1000個強のRNA結合タンパク質が存在し、RNAの特異的な配列や2次構造(consensus sequence or structure)に結合し、転写されたRNAの転写後調節(選択的スプライシング、poly-A付加、mRNAの安定性や代謝、輸送、翻訳調節)をすることで、遺伝子発現の多様性を制御することが知られています。この機構は、構造や機能が高度に複雑化かつ特化した高等動物の神経系または筋組織などで重要と考えられていますが、実際どのように各種の組織や細胞で働き、全体として何を包括的に制御しているかという全体像はいまだはっきりしていません。私たちは、以下のようなストラテジーでこの謎に迫ろうとしています。

 

2. RNA結合タンパク質の発現プロファイリング

  RNA結合タンパク質がそれぞれどのような組織や細胞で発生のどの時期に発現しているかということは、現在ほとんど分かっていません。私たちは神経発生のプロセスをモデルとして、全RNA結合タンパク質の発現プロファイルを調べ、さらに未知のRNA結合タンパク質の遺伝子改変マウスの作成・解析を行うことで、神経発生においてRNA結合タンパク質が発生のどのようなプロセスを制御しているのかを解明しようとしています。


3. RNA
制御のメカニズム解析

 1つのRNA結合タンパク質は同じ認識配列をもつ複数のRNAに同時に結合し(multiple targets)、さらに1つのRNA上に複数のRNA結合タンパクが結合して相互作用し、結合部位と相互作用分子により機能を変えることから(context dependent multiple function)、その機能を明らからするのが難しい分子群です。これに対し我々は、次世代シークエンサーを用いたHITS-CLIPRNA結合タンパク質-RNA複合体の免疫沈降と網羅的シークエンス)、RNA-SeqによるRNA発現および制御の解析、オリジナルに開発したスプライシング・レポーターシステムを組み合わせることでRNA結合タンパク質の機能の本質に迫ろうとしています。

4. RNA制御異常と神経変性疾患や精神疾患

  近年の神経変性疾患、遺伝性筋疾患、および精神疾患の大規模なゲノム解析から、これらの疾患の原因遺伝子の候補として多くのRNA結合タンパク質の変異が報告されています。これらの原因遺伝子の遺伝子改変マウスを作成して行動解析によりその症状を観察し、さらに組織サンプルを用いたRNA制御の解析を行うことで、未だ謎の多い神経筋疾患および精神疾患の分子病態の解明に迫ろうとしています。